【読書感想】なるべく働きたくない人のためのお金の話 大原扁理
大原さんは自分の理想の生活のため、なるべく生活コストを切り詰めて、週2日のアルバイトで必要最低限の生計を立てている、という方です。
本書の冒頭に大原さんの1日のスケジュールが紹介されていますが、悠々自適で羨ましい限りです。
生活スタイルには簡素ながら独特の美意識が感じられ、「現代の鴨長明なの?」と思いました。
本書では大原さんが(彼自身曰く)隠居生活をすることになった経緯や、隠居生活で感じたことをお金の観点で述べられています。
中でも気になったフレーズは「何かをしないことで得られる満足」と「人生の正しさを持ち込まない」の2つです。
何かをしないことで得られる満足
大原さんは隠居生活に移る前はアルバイトを複数掛け持ちし、都心の高い家賃を苦心しながら払い続ける生活だったと言います。
その当時の月収から、ワーキングプアだったと言えるでしょう。
忙しい時には「この生活じゃ、時間がないしやりたいことが出来なくてイヤ!」と感じていたとのことですが、いざ隠居生活を開始して時間ができるとやりたいことがないことに気がついた、と言います。
それでも隠居生活に満足していた大原さんは「やりたくないことをしなきゃいけない生活がイヤだったんだ」と気づきます。
この件は私も「わかるわかる」と何度も頷きそうになりました。
仕事でメンタルを崩してしまったのも、「やりたくないことをしなきゃいけない」日々が続いたからだと思います。
もっと正確に言えば「やりたくない(と自分で決めつけている)ことをしなきゃいけない(と自分で縛り付けている)」かもしれません。
大原さんが仕事全般が絶対にやりたくない訳ではない、と語っているように、私も仕事が絶対にイヤな訳ではないんだと思います。
大原さんは「イヤなこと・やりたくないことをリストアップしてみる」ことを勧められています。
私も「何かをしない満足」を目指して、イヤなことは何か改めて考えてみようと思いました。
人生の正しさを持ち込まない
これはドキッとする内容でした。
ついつい自分のキャリアや人生を考える時に、「これであってるのか、正しいのか」と考えてしまいます。
直近で言えば、「休職してしまったが、これで本当によかったのだろうか、何か意義あるものにしなければ」と考えていました。
確かに、「それで合ってるよ」と思えたり、「この経験には意味があったんだ」と感じられると安心しますよね。
しかし、大原さんは正しさとは相対的なものであり、「自分は正しい」と安心するためには間違っているものと比べなければいけない、と言います。
さらに、間違っている何かを常に探し続けることはしんどい、と言います。
例えば、大原さんは自身の生活を肯定するためには一生懸命働いている人を「間違っている」と言わなければなりません。
でもそれって間違いではないはずです。
このように、自分の生き方に正しさや意味を持ち込むと、それは終わりなき「間違い」探しの旅になってしまい、結果として自分を苦しめてしまう…
そうではなくて、自分が人生に満足しているかどうかが重要だと思いました。
SNSで他人の生活や考えが嫌でも目につく現代で、自分の満足だけを追求して生きるのはなかなか難しいと感じました。
じゃあSNSを一切見なければいいかというと、それはそれで勿体無いとも思いますし…
だからこそ自分の考えをこうして文章に残しておくことは、頭の中を棚卸して、自分の価値観を客観視できる方法なのかもしれないな〜と思いました。
最後に、大原さんは週2日介護のアルバイトの他、知人から頼まれた作曲や翻訳、執筆などもすることがある、と述べておりました。
また台湾に移ってからはトラベルライターとして収入を得ているそうです。
なんたる多才ぶり…! そんな方が一アルバイトとして日々摩耗していたなんて勿体無い…! と思いましたが、やはり時間のない生活においては、彼のそんな才能が発揮されることもなかったということなのかな、と思いました。
本書終盤で、大原さんはお金を擬人化して遊んでみようと語ります。
なんとも童話的で牧歌的な発想ですが、このくらい精神的なゆとりを保ちたい、と思いました。